民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)〔令和元年6月27日付法務省民二第68号〕


・民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)

〔令和元年6月27日付法務省民二第68号〕

 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。以下「改正法」という。)の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについては,下記の点に留意するよう,貴管下登記官に周知方お取り計らい願います。
 なお,改正法の施行期日は,自筆証書遺言の方式を緩和する方策について平成31年1月13日,配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等について令和2年4月1日,そのほかについて令和元年7月1日とされているところ,配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等に係る不動産登記事務の取扱いについては,追って通達します。
 おって,本通達中,「法」とあるのは改正法による改正後の民法(明治29年法律第89号)を,「旧法」とあるのは改正法による改正前の民法をいいます。

1.本通達の趣旨

本通達は,遺産分割に関する見直し,遺言制度に関する見直し,遺留分制度に関する見直し,相続の効力等に関する見直し,相続人以外の者の貢献を考慮するための方策等を内容とする改正法の施行に伴い,不動産登記事務の取扱いにおいて留意すべき事項を明らかにしたものである。

2.民法改正関係

⑴ 遺産分割に関する見直し

ア   遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人は,その全員の同意により,当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができることが明確化された(法第906条の2第1項)。
 また,法第906条の2第1項の規定にかかわらず,共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは,当該共同相続人については,同項の同意を得ることを要しないとされた(同条第2項)。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され,同日前に開始した相続については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

イ   遺産の分割の協議又は審判等

 共同相続人は,法第908条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議で,遺産の全部又は一部の分割をすることができるとされ(法第907条第1項),遺産の全部のほか,一部の分割をすることができることが明確化された。
 また,遺産の分割について,共同相続人間に協鏃が調わないとき,又は協議をすることができないときは,各共同相続人は,その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができるとされた(同条第2項本文)。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され,同日前に開始した相続については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

⑵ 遺言制度に関する見直し

ア   自筆証書遺言

 自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(法第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については,自書することを要しないとされ,この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては,その両面)に署名し,印を押さなければならないとされた(法第968条第2項)。
 これにより,遺言書の末尾に添付されることが多い,いわゆる遺産目録については,各ページに署名し,印を押したものであれば(用紙の片面に目録の記載があるときは,署名及び押印は裏面でもよい。),パソコン等により作成したもの,遺言者以外の者が代筆したもの,登記事項証明書等を添付してこれを目録とするもの等であっても認められることとなる。
 また,自筆証書(法第968条第2項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じないとされているところ(同条第3項),この目録中の加除その他の変更については,同目録以外の部分と同様の方式によってすることを要するとされた。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(平成31年1月13日)以後にされた自筆証書遺言について適用され,同日前にされた自筆証書遺言については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第6条)。

イ   遺言執行者の任務の開始及び権利義務

 遺言執行者は,その任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならないとされた(法第1007条第2項)。遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされ(法第1012条第1項),遺言執行者の職務は遺言の内容を実現することにあり,必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではないことが明確化された。
 また,遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができるとされ(同条第2項),遺言執行者の権利義務が明確化された。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)前に開始した相続に関し,同日以後に遺言執行者となる者にも適用するとされた(改正法附則第8条第1項)。

ウ   造言の執行の妨害行為の禁止

 遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないとされているところ(法第1013条第1項),法第1013条第1項の規定に違反してした行為は,無効となることを明確にしつつ,ただし,これをもって善意の第三者に対抗することができないとして(同条第2項),善意者保護規定を設けている。
 また,これらの規定は,相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げないとされ(同条第3項),相続債権者を含む相続人の債権者については,その適用がないことが明確化された。この相続債権者等による相続財産についての権利行使としては,相続債権者等による差押え等の強制執行等が該当する。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され,同日前に開始した相続については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

エ   特定財産に関する遺言の執行

 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは,遺言執行者は,当該共同相続人が法第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとされた(法第1014条第2項)。
 また,法第1014条第2項の規定にかかわらず,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,その意思に従うとされた(同条第4項)。なお,遺言執行者は,一般に,法定代理人であると解されており,これは,改正前後で異なることはない。
 これにより,不動産を目的とする特定財産承継遺言がされた場合に,遺言執行者は,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときを除き,単独で,法定代理人として,相続による権利の移転の登記を申請することができることとなる。
 おって,相続人が対抗要件を備えることは,遺言の執行の妨害行為(法第1013条第1項)に該当しないため,当該相続人が単独で,相続による権利の移転の登記を申請することができることは,従前のとおりである。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については適用しないとされた(改正法附則第8条第2項)。

オ  遺言執行者の行為の効果

 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずるとされ(法第1015条),遣言執行者が行為をする場合には,自らの資格を示してすることを要し,また,その遺言執行者の行為の効力が直接に相続人に対して生ずることが明確化された。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され,同日前に開始した相続については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

カ   遺言執行者の復任権

 遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるとされ(ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。)(法第1016条第1項),遺言執行者についても,他の法定代理人と同様の要件で,復任権が認められた。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後にされた遺言に係る遺言執行者について適用され,同日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第8条第3項)。

キ   撤回された遺言の効力

 法第1022条から第1024条までの規定により撤回された遺言は,その撤回の行為が,撤回され,取り消され,又は効力を生じなくなるに至ったときであっても,その効力を回復しないとされているところ(法第1025条本文),その行為が錯誤,詐欺又は強迫による場合は,この限りでないとされた(同条ただし書)。
 これは,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。以下「改正債権法」という。)により,錯誤に基づく意思表示が詐欺,強迫とともに取消しの対象とされたことから(同法による改正後の民法第95条第1項),撤回行為が錯誤に基づく場合を含め,その遺言の効力が否定されないことが明記されたものである。
 この改正後の規定は,改正債権法の施行の日(令和2年4月1日)から施行するとされ(改正法附則第1条第3号),同日前に撤回された遺言の効力については,なお従前の例によるとされた(同附則第9条)。

⑶ 遺留分制度に関する見直し(遺留分侵害額の請求)

 遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。)又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるとされ(法第1046条第1項),これまで遺留分に関する権利を行使することによって当然に物権的効果が生じ,遺留分を侵害する遺贈又は贈与の全部又は一部が無効となるものとされていたものが,この規律を見直し,遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生することとされた。
 また,遺言による相続分の指定(旧法第902条),包括遺贈及び特定遺贈(旧法第964条)について,遺留分に関する規定に違反することができないとする規定が削除され,遺留分に関する規定の用語についても「減殺請求権」を「遺留分侵害額請求権」に改めるといった改正がされるとともに(法第1048条等),遺留分の計算方法が明確化された(法第1042条)。
 上記改正により,従前の遺留分減殺を登記原因とする所有権の移転の登記の申請は,受理することができないこととなる。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され,同日前に開始した相続については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

⑷ 相続の効力等に関する見直し(共同相続における権利の承継の対抗要件)

 相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,法第900条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができないとされた(法第899条の2第1項)。
 したがって,相続を原因とする権利の承継であっても,その取得した権利の全体について登記等の対抗要件を備えなければ,法定相続分を超える部分について,第三者に対抗することができないこととなる。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され,同日前に開始した相続については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

⑸ 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別の寄与)

 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人,相続の放棄をした者及び法第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下「特別寄与者」という。)は,相続の開始後,相続人に対し,特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下「特別寄与料」という。)の支払を請求することができるとされた(法第1050条第1項)。
 また,法第1050条第1項の規定による特別寄与料の支払について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができるとされ(同条第2項本文),ただし,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき,又は相続開始の時から1年を経過したときは,この限りでないとされた(同項ただし書)。
 この改正後の規定は,改正法の施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され,同日前に開始した相続については,なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。

3.家事事件手続法改正関係(特別の寄与に関する審判事件を本案とする保全処分)

 家庭裁判所(家事事件手続法(平成23年法律第52号)第105条第2項の場合にあっては,高等裁判所)は,特別の寄与に関する処分についての審判又は調停の申立てがあった場合(法第1050条第2項本文)において,強制執行を保全するため必要があるときは,当該申立てをした者の申立てにより,特別の寄与に関する処分の審判を本案とする仮差押え等の保全処分を命ずることができるとされた(改正法による改正後の家事事件手続法第216条の5)。具体的には,特別寄与料の支払を命ずる審判の強制執行を保全するための仮差押え等が該当する。

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